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れいばんサンのひとりごと

第19球 「結果は工夫や努力から生まれる」

「いや~、まいったよなあ。こんなに強くなっているなんて!」
花房タツヤは、珍しく居酒屋《球壱》のカウンターでビールを煽りながら、何度もその言語を繰り返していた。
「タッちゃあん~それ言ったのもう、5ひゃいめだよよお」
対応する高田謙介も、もはや呂律が回っていなかった。
「ばあかやろう!居酒屋の息子が自分の店で酔っ払って同じことリピートしてどうするんだ!」
そういった父・サトシも、息子の頭を叩きながらも嬉しそうだった。

15対2

夏真っ盛りの球場は、いくら水分を補給しても足りないくらいの熱波と共に体力を奪っていった。
しかし、夢小金井商栄会チームはこれまでの特訓が活き、スタミナを奪われることなく、じっくり得点を重ね、隣町商店街とのリベンジ対決で大勝した。そして美酒に酔いしれながら試合を振り返っていた。
「しかしよお、オレらの実力は本来の姿になってきたけど、あの少年たちが、なあ・・・」

カタカタカタ
岩長耕平は、自宅の机に向かい、最近購入したばかりのMAC BOOK AIRを駆使して相手チームのデータをかき集めていた。
時折、ふと顔を上げ、目の前のものとは違うものを見つめながら溜息をついた。
はあ。
そして再び、キーボードを一心不乱に打ち込んだ。

だはははははは!

宴がヒートアップして、居酒屋内に品のない笑い声が広がった。
声の主であるタツヤが悪戯っぽく叫ぶ「しょうがねえでしょう!だってあいつらは、お勉強とゲームとパソコンしかできない少年たちなんですからあ」
バシっ!!
「な、なにをしやが・・・」
左頬をまるで乙女のように押さえながら、我に返ったタツヤが小さく呟くのと同時に、平手打ちした主が制して叫んだ。
「あんた、ぜんぜんわかってないよ!個人個人の力が増したからって、チーム全体で進んでいかなきゃ、本当の勝負に勝てやしないよ!」
いつの間にか店に入ってきた平手打ちの主・小森萌子が、目の周りを赤くして液体をそこからこぼしそうになるのに耐えながら立ちつくしていた。
「ご、ごめん」
以前のタツヤなら、きっと萌子の行動に反逆していただろう。
しかし、度が過ぎたと反省できるだけ成長したのか、涙ぐむ萌子に向かって、蚊の鳴くような小さな声で謝罪した。
「別にいいよ。あんなヘタクソたちがどうなったって、別に私には関係ないし」
照れを隠すように、萌子は自分らしい悪態をついて呟いた。
「そろそろさ・・・」そんな気まずい沈黙を破るように、高田が徐に萌子に対して言葉を発した。
「萌子ちゃんもさ、みんなと一緒にやらない?」

みんながグラウンド練習をしている日々、萌子は、名も知らぬ男の指導を大林農園で受けていた。学校に行っても面白くもなんともないと腐りかけていた自分の心に、この、週に数回の特訓の時間はどうにも表現できない潤いを与えた。

名も知らぬ男・花房宏一は、萌子に名前を聞かれることもなかったので、ひたすらにこの少女の実力アップに協力した。そして萌子も、自分の立ち位置をはっきりさせるまではこの人物に心を委ねようと考えてひたすらにバットを振ってきたのだ。

そしてきょう、夢小金井商栄会の試合を観戦した時、グラウンド脇にいる彼を見つけ、思い切って名前を聞いたのだ。
臆すること無く自分の名を語る宏一の苗字を知り、それが、商店街の敵対するチームのボスであると知った。
何故、自らのチームの首を絞めるように萌子を指導するのか?その真意の奥底は理解できなかったが、とにかく勝負に賭ける思いがヒシヒシと伝わってきたのだ。そして、何も考えられないまま、居酒屋《球壱》を訪れていた。
「一緒にやろうよ」
高田の言葉に、どういうワケか涙が止まらなかった。
萌子は、言葉を発することなく頷き、タツヤに平手打ちをしたことを詫びていた。

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