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れいばんサンのひとりごと

第11球 「障害は怖くない、怖いのは目標を見失ったとき」

「へいへーい、アツいねえお二人さんよお。ひゅ~ひゅ~」

児童公園を少し大きくしたような広場の端の小高い芝生。
かける言葉を失い戸惑いながら押し黙る少年・新津フミヤと、黙って芝生を見つめる少女・小森萌子との間の短い沈黙の中に、時代を20年ほど遡ったかのような《下品な》男たちの声が降りかかった。

「ボクちゃんたち中学生かい?こぉんなところでナニなことしていたら、コワーイおまわりサンに捕まっちゃうよお。およ?よく見るとお嬢ちゃんカワイイねえ。あっちでおニイさんたちが世間についてもっとお勉強させてあげようねえ。だからお坊ちゃんの方は、早く消えな!!」
ヘラヘラと2人に近づく男たちを、萌子は気にも留めずアカラサマに無視をしたが、新津は思わず立ち上がった。
「やめときな」
静かに萌子が新津を制した瞬間、「消えろって言ってんだろ!!」という男たちの声と共に、新津が倒れた。
「ひ弱な小僧が、オンナの前だからって突っかかってくるんじゃねえよ!」
男たちに倒された新津は再びムリヤリ起こされた。体の真ん中から上半身だけを前屈させた新津の腹に向かって、今度は別の男が膝を入れた。のけぞって上体を跳ね上げられた新津の体を、さらに別の男が背中から支え両腕を抱える。そして、先ほど腹を蹴り上げた男が思い切り新津の左頬を一直線に殴りつけた。下品な声をあげて近づいた男たちはどうやら4人。ちなみに、端役なので名前は割愛しよう。新津がなすすべもなく連打され始めたのと同時に、残りの2人が萌子に近づき右腕を捕った。
「まあまあ、おびえなくてもいいよお嬢ちゃん。すぐに楽しくなるから」
「・・・・・・・」腕を掴まれ無言で立ち上がる萌子。
「あらあら、怖くて声もでないのかなあ。かわい・・・」
そう言って唇を突き出し萌子に近づいた男が、突然、頭から血を吹きだして後方に倒れこんだ。
「・・・近いんだよ、気持ちわりい」
「な、なにしやがるんだテメー!!」
顔を近づけた男を思い切り頭突きで跳ね飛ばした萌子は次に、意気込んで近づいたもう1人男の金的を背中ごしに蹴り上げた。そしてそのまま体をひねらせ、呻きながら倒れ掛かる男の横頬を垂直に蹴った。白目を向き横転する男を踏みつけ、今度は新津のもとに駆け寄る。騒ぎに気付いた男たちが萌子に体を反転させ向かってくる体制に入る瞬間、萌子は突然しゃがみこみ2人の男の視界から消えた。一瞬戸惑った男たちは、後頭部にアツい感触を感じその場に倒れこんだ。

ピーピーピー!!

そこで突然フエが鳴り響き、白い自転車を倒しながら警察官が猛ダッシュで駆け出してきた。
「やべっ、逃げるぞシンちゃん!」「あ、ああ・・・」
殴られ意識を失いかけていた新津は何とか萌子の声に反応できたが一瞬遅かった。駆けつけた警察官に取り押さえられる。
逃げ出した萌子は既に60メートル先まで行っていたが、事態に気付き踵を返した。
「ったく、なに捕まってるんだよ・・・・。あーはいはい!私たちは悪くない!こいつらが粉かけてきやが・・・」
「いいから、お前たちも一緒に来い!」
応援に駆け付けたパトカーと数名の警察官になすすべもなく、名もなき男たちに加え、萌子たちも連行されていった。


「萌子は、昔は素直でいい子だったんです」
商店街が衰退していくことに憂いを感じ、それまで勤めていた一流商社を退職した山田浩二は、姉夫婦が住んでいる夢小金井商栄会の空き店舗の1つを借り受け、今年の初めから店をはじめていた。
「姉夫婦がこの夏からニュージーランドに転勤することになりまして・・・。それで私が彼女の面倒を見ることに・・・」
「でもよお、なんで中学生の子供を置いて行くんだ?」
ゆっくりと口を開いた山田を制し、いきなり理容師・吉田幸太郎が質問した。
「いや、もちろんおかしな話なんですが、実は姉夫婦は仲が・・・」
「あーなるほど!あんたの姉さん夫婦は仲が悪くて、そんでもって離婚したってぇわけだね」
またまた、山田が話し始めたところで吉田が口をはさむ。
スコーン!
「ばあかやろう。おめーはちゃんと、山田くんの話を最後まで聞いてから質問しろ!」
たまりかねて居酒屋《球壱》の店主・花房サトシが、吉田の頭を丸めた雑誌で殴りつけた。山田は、多少気にした様子を見せたが、すぐに冷静になって淡々と話を再開した。
「いえ、実はその逆で、姉夫婦は非常に仲が良いのです。私は今年のはじめから姉夫婦の家に居候していたのですが、本当に仲が良すぎて、もはや娘の萌子のことなど眼中に無いという様子でした。それが突然、義兄の海外転勤が決まって・・・」
ガラガラガラ!
「小森萌子さんのご親戚の山田さんはこちらですか!?」
山田が再び語り始めたところに、今度は居酒屋の扉を開けて警察官・佐藤一輝が萌子を引き連れて入ってきた。

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