HOME > れいばんサンのひとりごと > 2020年11月8日号
れいばんサンのひとりごと
■破天荒と堅実のあいだを往復しながら
昨年夏、ひとりの研究者がこの世を去った。

サーファーでLSDの常習者で女性好きとの噂も高いファンキーな生化学者。名前は、キャリー・マリス。

型破りなその人生は、時に周辺との軋轢を生みながらも、この世に大変な恩恵を残した。

ポリメラーゼ・チェーン・リークション。

DNAの一定領域をピンポイントで増幅できるこの「PCR」というシステムは、現在の分子生物学の分野では欠かせない。

時にこのような発見は、型破りともファンキーとも言われるような突飛もない発想から見つけられる。

ただ、本当はそれだけではない。マリス博士も普段から研究は続けていた。

頭の中に染み付くほど研究内容が入っていたからこそ、ドライブデートでこの大発明を成し得たのだ。

さらにそれだけではない。物語には表があれば裏もある。

PCRにつながる世紀の大発見である遺伝子の螺旋構造。ワトソンとクリックにより発表された「種明かし」は世を驚かせた。

だが、この発見の裏には日々X線画像を追い続けたアンサングヒーローの存在がある。

このことについては、福岡伸一先生の「生物と無生物のあいだ」に詳しいのでぜひ一読いただきたい。

マリス博士にもアンサングヒーローがいる。研究員時代の上司だ。

破天荒なマリス博士を抑えながら乗らせるのは大変苦労したことだろう。その成果が現代の世を救っている。

2020年季は波乱に満ちた1年だった。春先に季節外れの大雪が吹き、秋季キャンプはもろに台風とぶつかった。

そして大きな病気の蔓延はまだ終息を見ない。だが、それでも野球ができたことに大いなる喜びを味わいたい。

マリス博士は1992年にノーベル賞を受賞した。博士の次代を担う研究者の方に感謝と応援の言葉を送りたい。